この地に舞い降りし女神
数時間後。

太陽は僅かに西に傾くも、先程に比べてかなり密度を増した木々が木漏れ日というものを許さない。

薄暗い、しかし決して陰気な印象を与えない森。

形容するならば、そう、『神聖』『幻想的』という表現がしっくりくる。



さくさくと男が草や枝を踏む音が止まった。



「……うわ、何だよこの“聖”っぽい雰囲気」

男が呟き溜息をついた。



泉だった。

果てしなく透明度の高い泉。

泉には白や薄紅の蓮が咲き、白い岩の小島が中心にある。



そして、小島の上に1人の女が佇んでいた。



「よく辿り着きましたね…――お前、名前は何と言うのですか?」

鈴を転がしたような、不思議に響く声で話す女。

――美しい女だった。



柔らかな春の陽射を思わせる黄金色の髪は長く腰まであり、この泉の水面のように緩く波打ち、その肌は真珠のように輝く。

髪と同じ色合いの双眸が暖かな光を浮かべて男の返答を待つ。



「聞く方から名乗るのが礼儀だろ?」

男はと言えば、緊張感無く欠伸を漏らし女にガンを付ける。



「…………」

女が複雑な表情で黙り込んだ。



「私[わたくし]に名はありません。ただ“泉の守り手”と呼ばれています」

「あ、そ。俺はレイ…レイ・スターク。――で?ご用件は?俺はぶっちゃけ取れるもん取れれば良い訳、あんたに用は無いんだな」



「…………」

女――“泉の守り手”が再び複雑な表情で黙り込んだ。

「――『取れるもん』、と言うのは…」

そのまま“守り手”は右腕を水平に持ち上げた。

拳を握れば、いつの間にか金色に輝く1振りの剣が握られている。

「この黄金の剣のことですか?それとも…」



“守り手”が左腕を水平にしたところで、男――レイが思い切り顔を顰めた。

「何処の童話だよコラ……森ごと焼き払われてぇのか?くだらねぇモン出すなよな。俺が欲しいのはンななまくらじゃねぇ、とっとと例のブツを出せ」

苛々と舌打ちし、右手を差し出して噂の剣の提出を求める。
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