恋愛一色
先生の涙を見ていたら、悔しくて、でも愛しくて…抱きしめたくなった。


『あっちいこ』


俺は先生の手を握り、人混みが少ない狭い道に場所を変えた。



薄暗い道にいるのは、先生と俺。


俺は先生の手を離さなかった。



先生の細い指から感じられる温もりが、心地よかったから…



『えっと…沢村くん?』


『…涙拭きなよ…』



こう俺が命令すると、先生はカバンからハンドタオルを取り出し、涙を拭いた。



俺は唇を噛み締め、先生をずっと見つめていた。


すると、ポケットの中から大音量の着信音が鳴り響いた。



俺は先生の手を握っている方とは別の手で携帯を取り出し、電話に出る。


『はい?』



『おい、お前今何時だと思ってるわけ?何分待たせるんだよ?』



電話越しから聞こえたのは、怒り口調で話す、和馬だった。



俺は和馬との約束をすっかり忘れていた。
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