恋愛一色
生ぬるい空気で溢れている廊下。


でも俺は汗ひとつも流れないでいた。



『言えよ。何があったんだ?』



なぜならば、今目の前にいる遥斗がとても怖いからだ。


俺は唇を噛み締めて、なるべく遥斗と視線を合わせないようにした。



…ちゃんと言わなきゃだめだよな。
遥斗に…ちゃんと…



俺はゆっくりと口を開いた。



『…美幸が…』



美幸の名前を出すと泣き出しそうになる自分。



『先生が?』



『俺が話しかけようとすると逃げるんだよ…連絡しても出てくれないし…相当嫌われてんのかな…』



俺は廊下のずっと先を見た。
次第に潤う瞳。

ここ最近、俺は泣いてばかりだった。

男の俺が泣くことは恥ずかしいことだけれど、涙は性別関係なく流れる。


遥斗は俺の寂しそうな顔を見たのか、遥斗まで暗い表情になった。



『まだ…分かんねぇじゃん。嫌われたとかまだ分かんねぇだろ?』



『分かるだろ…あんな避けられたらもう無理だろ…』




遥斗には分かるわけない。俺は自分なりに頑張ってきたつもりだ。


でも俺の声は美幸に一度も届かなかった…
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