こちらは何でも屋サン
~プロローグ~
~プロローグ~
空は真っ青で、そこには白い雲が流れている。
桜咲く季節だというのに、真夏並の暑さが街を刺す。
小さな建物の2階に『何でも屋』と書かれた看板が掛かった場所がある。
部屋に入った左右に2つづつと、奥とに事務用の机が完備されていて、いたるところに資料であろうファイルが並ぶ棚がある。
奥の机に両足をクロスさせて乗せ、踏ん反り返っている男が一人。
ボサボサの黒髪に眼鏡をずらして掛け、普通にしていれば良い男なのだろうが、無精髭が男を汚らしく見せている。
ダラしなく緩んだネクタイにヨレヨレのシャツ、シャツの隙間から見える身体は、バランスよく綺麗な筋肉がついてた。
「あちぃ……熱すぎる……。なんなの? ねぇ、なんなのこの暑さっ!? 今春だよね、桜咲く素敵な季節だよねっ!?」
男、吉良野巧(きらのたくみ)は一人騒いでいる。
「社長、騒がないで下さいよ。それでなくても暑いのに……鬱陶しいったらない」
巧から見て左に座る女、原唖知香(はらあちか)が紙の上でペンを走らせながら、不機嫌そうに呟いた。
「……酷いよ、唖知香ちゃん」
「クスクス、相変わらずお二人は仲良しさんですねぇ」
机に突っ伏して泣き崩れる巧をよそに、もう一人の女、上川唐子(うえかわとうこ)が暑さなど嘘かのような、爽やかな笑顔を浮かべた。
「どうでもいいですけど、アホみたいな顔してボケェ~っとしてないで、社長もちょっとは仕事取って来て下さいよ。それでなくてもアホ面なんですから」
「唖知香ちゃん、君ね、一応俺社長なんだからさぁ、もう少し労わろうよ、ね?」
「労われ、だと?」
ただ黙々と仕事をしていた唖知香が、手を止めて鋭い目つきで巧を見る。
その目は、あの蛇頭の妖怪を思わせるほど、恐ろしいものだった。
「仕事もろくに取って来ねぇうえに、毎日ぐーたらぐーたらしてるおっさんをどう労われってんだよ、あぁ? だいたい先月の給料もまだじゃねぇかよっ! もう今月も終わんぞっ! 終わっちゃうんだぞっ!?」