七色の糸(仮)
 午後の授業、掃除の時間と、ぼくは上の空で過ごした。まるで別の場所から自分を眺めているような気分だった。

 男子トイレでの出来事は特に噂にはなっていなかった。



「どうしたの?」

 帰ってくるなり、母はぼくにそう言った。どうやら酷い顔をしているようだ。

「何かあったの?」

 ぼくは小さく首を振って「疲れた」とだけ言うと二階の自分の部屋に引っ込んだ。

 台所から夕飯の匂いがした。



 今日の恥ずかしい出来事は家族には知られたくなかった。

 夕食は家族四人で食べる。家ではよく話すほうだけど、さすがに今日はそんな気になれず、姉が部活動での活躍を話すのを黙って聞いていた。

 ぼくは味のしない料理を飲み込むように食べていたが、やがて喉の奥につっかえると、大粒の涙を溢してしまっていた。


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