鏡村【短編】
「智治ひとりで行けばー、あっ健人コンビニ有ったら寄ってもらってもいい?」


玲に分かったと返す健人の声と、智治がいじけて言った一言とが被った。


続けて智治が何かを喋っていたが、私の耳には届いても頭には入ってこない。


「確かこの近くに有名な霊が出るっていう廃墟あるらしいから、智治だけ置いてってあげてもいいぞ」


「健人まで女二人の意地悪伝染ったのか?」


健人と智治の会話を背に私は外の景色を眺める。


「智治がしょーもない事ばっか言うからだよ」


黙ってればかっこいいのに、と亜美は余計な一言を付け加えた。


私も含め全員がその一言に納得すると、どっと笑いが零れる。


車は少しずつ、ゆっくりと前に進んでいた。


道の端にはカーブ注意の標識と確認ミラー。


吸い込まれるようにそのミラーを見る。


どうしたことか、私はそのミラーが気になって仕方がなかった。



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