蒼空から降ってきた少女




「はーるっ」


学校まで続く厳しい坂道を自転車を押しながら登っていた僕は、名前を呼ばれた事に気付きはしたものの、返事をする事も振り向く事もしなかった。


理由はただ一つ。

いや、二つ。

一つは、坂道が激しく苦しいため。
歪な曲線を描いた急な坂道を登るのには、毎朝多大な労力を必要とする。

学校側はこの坂を‘希望の坂’と呼ぶが、いやいや、どの辺に希望の要因が含まれているんですか?と僕は問いたい。
毎朝死ぬ思いをして登校している者は皆同じ意見だろう。


車で涼しげな顔をし坂道を登っていく教師達を見ると、車に十円玉で馬鹿って彫りたい衝動に駆られるのだ。

現にほら、今通り過ぎて行った椛組の担任、宮古叶也の車のボンネットには何故か温故知新と大きく彫られている。

無駄にカッコ良くレタリングされていると思うのは僕だけだろうか。


勿論僕は他人様の物に傷をつけるなど、外道な真似はしない。

そして僕は宮古先生が血眼になって探していたそれの犯人を知っている。


篠崎湊。進学校であるため、比較的真面目な生徒が多いこの成高学園で、抜きん出た不良だ。


金髪にピアスのこの少年が学年一位の成績を維持し続けているので、世も末だな。
僕の努力が報われない訳だ。


二つ目の理由、僕の名を嬉しそうに呼び続けるのは、僕の苦手な人間である、篠崎湊、その人であったからだ。




 

 
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