蒼空から降ってきた少女
「遥、はっるぅー、はるはるハルたん遥太郎…………蒼井遥!!」


「何?篠崎湊くん」


僕がいやいや振り向けば数十メートル後ろにいた湊は嬉しそうにこちらに駆けて来た。


「はは……っ、ハァ、何は無いだろ、何は。朝の、挨拶は、爽やかに、おはようだっろ、っが」


「息切れ激しすぎて気持ち悪いよ。それより少し離れて歩いてくれるか?目立ってしょうがない」


私立成高学園中等部では、多くの人が同学園初等部から進学して来ている。


しかしその中で僕と湊は、珍しく同じ市立小学校から編入し、一年時には同じクラスだったので、事あるごとに湊に絡まれる日々を過ごしていた。


「なんか遥って俺にだけ毒舌じゃね?ツンデレ極めるのか?」

「いや、一生デレる事は無いと思うけど……それに一年間一緒にいて分かったんだよ、君が甘やかせば甘やかす程図に乗るタイプだって。」


「ひでぇー!!俺は何時だって真面目に不真面目だぜ?」


「無駄に既視感のある台詞だな……何で真面目に不真面目やってて学年首位であり続けられるのかお……」


教えてくれよ、と言おうとした所で湊が何かを思い出したように手を叩いた。


「あっ、ああ、そうそうそうそう、お前のクラスに来た転校生いるじゃん、えっとー、」

「紅崎真白」


「そう、それ。その子超可愛いよなぁ、美少女転校生……超燃える!!」


「…………」



美少女転校生、紅崎真白。


転校してきて早々、至極不適切な自己紹介をして、気味悪がれていた彼女だが、学園内に広がったのは、彼女の内面ではなく、外見の話題だった。

可愛いとか美人だとか、躯が華奢だが胸がでかいとか。


でも僕にとってそんな事はどうでも良かった。

彼女の凛とした声色、ずっと遠くを見据える、どこか哀しい瞳。

人を嘲るような細い笑みや、何者をも寄せ付けない空気までもが、僕の心を捉えて離そうとしなかったのだ。



「遥、聞いてる?」


「何が?」


「だから俺真白ちゃんデートに誘ってみようかって」


「……正気か?まぁ、頑張ってみれば?無駄だとは思うけど」


横で湊がハァ?と口を尖らせている。


紅崎真白。彼女なら、平凡な僕の人生を変えてくれるに違いない。

何故か僕はそう確信出来た。




 
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