蒼空から降ってきた少女
9時15分。
完璧な遅刻だ。
いや、元から、1時間目の授業に間に合うように学校に行く気は無かった。
自転車置き場に自転車を止めながら、考える。
1時間目、もう終わるな。
2時間目は数学か。ダルいけど受けよう。いや、それとも屋上で休んで、次の体育から参加しようか。
篠崎湊は、緩く結んだネクタイを更に緩めて校舎に向かった。
「……あれ?」
2時間目の数学もサボろうと決めた俺だったが、校舎内の階段を登っていると直ぐに異変に気づいた。
今は授業中のはずだ。
授業中がいくら静かだとしても、普通様々な雑音が混ざり合って耳に届くだろう。
……静かすぎる。
校舎に響く音はほぼ無に近かったのだ。
屋上へ向かっていた足を自分のクラスへと向けた。
2年椿組の教室を覗いても、空っぽだ。
いや、椿組だけではなく、他のどのクラスでも同じように、人一人いなかった。
やべー、俺、ミスったかも。
なんかの日で学校休みだったのか?
誰かに会っても恥ずかしいし早く帰ろう。
そう思い、俺は足早に校舎を後にしようとした。
しかしその時、
「篠崎くん?」
静まり返る長い廊下に、甘く幼い声が響いた。
余りに急だったので、肩が跳ねてしまう。
後ろを振り向くと、椿組の学級委員長、木原名奈が立っていた。
「ビビったぁ、つか木原なにしてんの?てゆうか、今日って学校休みだった?」
「違うわよ。私も遅刻してきたんだけど、なんか、全校の緊急集会が開かれてるみたい……一緒に行きましょ」
「お、おぅ」
俺は木原の小さな背中を追いかけながら頭の中を小さな疑問がよぎった。
冷たい廊下に2人の足音だけが耳に響く。
しかし直ぐに空っぽの校舎に、大音量で校歌が流れた。1時間目の終わりを伝えるものだろう。
俺は虚しく響く校歌を少しだけ鬱陶しく思いながら、ただ木原について歩く事だけに集中する事にした。