炬燵 (短編)
思わず、カバーをめくってみる。

そこにアナタの痕跡がないかと思って。



でも。


そんなものはどこにもなくて。

足元に、冷たい空気が吹き込むだけで。



だからね、また黒のカバーに戻してみたの。

大好きだったミカンも買って上に積んである。


玄関を開けるたび、

「ミカン、買ってきたー?」

そんな声が聞こえそうなんだよ。


目を瞑ると、そこにいる姿が目に浮かぶのに。



やっぱりいなくて。



「ミカンには黒が映えるよね…」


言っても答えは返らない。
< 9 / 15 >

この作品をシェア

pagetop