バンビ
思い切ってトイレの中に入ると、洗面所の前に座り込んで頭を抱えているモモがこっちに背中を向けて肩を震わせていた。



「エイジ・・・くん?」


モモは振り返ると、涙をいっぱい浮かべて俺の事をじっと見つめる。


髪の毛がぼさぼさで、所々切り刻まれたような感じに乱れていた。
服はちょっと乱れていたけど、やぶれてはいないみたい・・・

怪我もしてないようで、ちょっと安心したけど、どう考えてもさっきの女に襲われたってことだよな??



「どうした?なにがあった?」


思わずそのまま抱き寄せて、髪の乱れを直してやろうとしたら、ハラハラと指の先から切断された髪の毛が落ちていく・・・



「いっいきなり背後から、髪をつかまれて切られた・・・」



モモは我慢できなくなって、そのまま涙を落した。


俺がもう少し遅かったら、もっと酷い事されてたのかもしれないなんて思ったら、ぞっとした。


「ビトのファンか?」


それだけ聞くと、モモは小さく頷いた。



それから、俺は自分の首に巻いていたストールをとって、モモの頭をすっぽり覆ってやり、もう帰ろうって言いながらとゆっくりと立ち上がらせてトイレを出た。






出口に向かおうとしたら、背後のほうでなにやら警備員だがスタッフだかが、数人もめている様子が聞こえてくる。
猟奇的な女の叫び声も聞こえた。

振り返ると、さっきの女が取り押さえられていて、裏口から勝手に入ってきていたんだと気付いた。




「あのーどうされましたか?」

スタッフの人にそう声をかけられて、一応被害にあったことを言おうかと思っていたら、いきなりモモに手を引っ張られた。


「あのなんでもないです!?行こうエイジ君・・・」
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