バンビ
ライブが終わって、汗だくになった僕は、さっき買ったばかりのTシャツに着替えた。

適当に、その辺にあったコンビニ袋にTシャツとタオルを押し込んで持っていたら、
「なくすなよ、そんな高そーなTシャツ。」
なんて言いながら、エイジが笑っている。



時間はもう9時を回っていて、そろそろ帰ろうかなって思っていたら、この後どうするって聞かれた。

「そろそろ帰ろうかな・・・」

なんとなく、余韻に浸っていたかったけど、未成年がふらふらしてると、危ないしな・・・なんて普通のことを考えてたら、打ち上げ出ていかないって誘われた。



「お前んちどこだっけ?そんな遠いわけじゃないだろ??」


「目黒だけど、あんまり遅いと心配かけちゃうし。」



それなら大丈夫だよって、何が大丈夫なんだか、エイジは僕の肩をがっちり掴んで、またバーの方につれていかれた。


「保護者がいれば、お前んちの母さんも、納得するだろ??」


そう言って、エイジは知らない女の人に声をかけて相談しているようだった。




「こんばんわ、いつもエイジがお世話になってるんだってね?」


30代ぐらいの、綺麗なその女性は、SAのTシャツにデニムのミニスカートと柄タイツをはき、足元は安全靴姿の、いかにもこういうライブにいそうな格好のお姉さんだった。

ちょっと僕の母さんに似てるかも?

でも、もっともっと若いんだろうな…


「どうも、はじめまして。」

わけもわからず挨拶していたら、俺の母さんだよってエイジに言われてびっくりした。


「ゴメンねー無理やりこの子に誘われたんじゃないの?怪我とかしてない??」

僕は大丈夫ですと、むしろむちゃくちゃ楽しかったですと、笑顔で答えた。



「ああ、遅くなるなら、私がレン君のお宅に電話しておこうか?
レン君のお母さんなら、保護者会で一緒になったことあるし。」

こんな場所で、保護者会なんて単語を言われると違和感があるなーって笑える。



じゃあお願いしますと、僕は携帯を取り出して自宅に電話して、エイジのお母さんに電話を変わってもらった。


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