バンビ
それから僕たちは、手をつなぎながら宛てもなく歩いていた。
どこかに行きたいとか何をしたいとかそういうのはなかった、ただ二人でいたかったんだ、僕は。


吉祥寺からいつの間にか高円寺まできていて、そしてカオリさんのうちの近くの中野までとうとう歩いてしまっていた。

ずっと二人でおしゃべりしていたけれど、尽きる話はなくて、いつまでもこうしていられるような気がして、とにかく楽しかったんだ。


彼女が出来るって、こんなにウキウキワクワクして、楽しくて仕方がない事なんだな。

｢あ、もうすぐそこうちだわ。｣

カオリさんが指差してそんなこと言うものだから、
｢じゃあ寄って行っていい？｣なんて勢いで言ってしまっていた。

ってことはだよ、僕たちは付き合う事になったわけで、二人っきりになるわけで、えっとそれはつまりそういうことになるかもしれないってことだよね？

初デートでそこまでは無理かななんて頭をよぎったとたん。

｢いいよ！｣

かおりさんは、めちゃくちゃ気軽にそうこたえた。




その調子がぜんぜん今までと変わらなかったから、ああきっと僕は何もしないと思ってるんだなと一瞬でわかってしまった。

それが少しさびしかったけれど。
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