バンビ
君のため

あれからモモの態度が明らかに変わった。

学校帰りに一緒に帰ってくるとき、やたら距離が近い。でもその割には、お互い気まずいのか今までのように気軽に話せなくなっていた。

自然と手が触れ合うと、そこで手をつないでいたりして、また抑えられなくなりそうで毎日緊張しっぱなし。

どうしたもんかね…


メールのやり取りや、電話も増えた気がするし、次の週末もどっか行きたいと言われそうなのは明白で、

でもそろそろ、バイトもちゃんとしなくちゃ俺もピンチだ。




「この前教えてもらったバンドのアルバム、聞いてみたよ。」


モモはふとそんな事を話し出した。
この前うちに来たとき、何気にこういうの好きだろうと思って、ブルーハーツを聞かせてあげたんだった。



「あのバラード曲好きだなあ・・・月がとても綺麗ってやつ・・・」


そうだ、この前現国の授業の雑談で先生が話していたっけ、夏目漱石のアイラブユーの訳を。
そんな事に思いをはせると、ヒロトさんの書くそういった歌詞たちは、一段と文学的な気がしてくる。



「私もライブ行ってみたいなあ・・・」なんていうから、もう何十年も前に解散したバンドだぜって教えてやると、知ってるよって笑われた。


「エイジ君の行くようなバンドのライブに、行って見たいよ。レンは一緒に行ったんでしょ?」


つないだ手をぶんぶん振りながら、モモは楽しそうに話す。






でもさ、



俺は、

俺は、モモをあの世界に連れて行きたくないんだ・・・
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