バンビ
「この前一緒にカラオケ行った日あったじゃん、あの後モモちゃんに会ったんだよ。」

ビトはぼんやりとそんなことを話し出す。



ああ、あの夜は、俺もリンダに会いに行ったっけなぁなんて思い出していた。


「たまにさ、内緒でうちに泊まっていったりしてたんだけどさ、なんていうかどうしても一線を超えちゃいけないような気がして、でも…」



深くため息をついた。



話の腰を折るよに、目の前に注文したラーメンがならんで、しばらく二人で黙って食べ始める。

いつもは好きな味なのに、何だか味がしない気がした。
ビトの言葉がいちいち抉ってくるような気がして。




「で、その日はやったってことかよ。」

待ちきれずに俺から問いただしてしまう。



「いや…」




ふとビトの横顔を見ると、複雑な表情でモグモグさせながら、それが何だかやけに艶っぽい。


「やっぱりできなかったよ、僕の方は。」


「それどういう意味だよ。」


「途中まではやったってこと。」


そこだけはやけに強調するよに、ビトも俺の方を見て、ニヤリと笑った。




「ちゃんと話したよ、待っててって。それまでは最後まではやらないからってさ。
まあでも、もう関係ないか、結局エイジが好きなんだもんな、モモちゃんは。」




そして、どうせもうしたんでしょって笑いながら言うので、こっちはなんだか複雑な気分になる。

ちょっと早すぎたかなと戸惑ったりしたけれど、俺にはきっと彼女をそんな風にしか愛せないのかもしれない…





目の前に出されたままの餃子が、やけにどんどん冷めていくような気がしたのは、冷房が効きすぎてるからだけじゃないだろう。



ああ酒飲みたくなってきた、アルコールの力でも借りないとやっていけない。



「俺もちゃんと好きだから、あいつの事、ちゃんと大事に思ってるから…」

口ではそういうけれど、どうすれば良いのかわからないまま、覚めた餃子を必死に食べてごまかしていた。


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