バンビ
ハードコア
夏休みに入ってすぐに、テツさんのバンド雷神のライヴがあった。

この前入れてくれるって聞いてたから、カオリさんも誘って二人で新宿ロフトに向かう。

テツさんのバンドはよく知らなかったけど、カオリさんは知ってたみたいで、対バンも知ってるバンドだったし、かなり楽しみだ。


「雷神って、確かLieWooに影響受けてそんなバンド名にしたんだって言ってたよね。」

カオリさんは結構古いバンドのことも詳しいから、そんなことを教えてくれた。

「昔は、雷雨って漢字だったんだってよ。メジャーになって変えたんだって。前はもっと渋いロックだったよね、今はかなりポップになっちゃったけど。」

そういえばうちにレコードとかいっぱいあったな、雷雨なら…

「ギターのダイスケさんってうちの両親とも仲良かった気がするよ。」

昔そういえば遊んでもらったことがあった気がする。

「なんなのあんたんちって、そういうネタ尽きないよね。」

そんな風にカオリさんは笑った。



入口で名前を言うと、ゲストのところにちゃんと僕の名前も書いてあったので、ドリンク代だけ払ってなかに入る。

お客さん達は、ちょっと大人な感じのパンクスが多くて、真夏なのに鋲付きの皮のライダースとか着てる人もいる…

女の人は少ないなぁって思ってたら、最前列の隅の方に知ってる顔が見えて、あって気づく。

やっぱりリンダさんも来てるんだな…


後で声をかけようかと思ったけど、雷神がトップで演奏し終わったあとは、いつのまにかどこかへいってしまったようで見失ってしまった。



エイジから危ないって聞いてたから、ライヴ中はちょっと遠目で後ろの方で眺めていた。

テツさんの声はすごく渋いしわがれ声で、なんだか味がある。
ハードコアなのに、ちゃんと歌詞も聞き取りやすいし、なんかエモい。

最前列では、もの凄いモッシュとダイブの嵐で、パンチ合戦なんかも繰り広げられている…


「ヤバイ、かっこいい~♪」

カオリさんがノリノリでじっとテツさんを見つめているから、ちょっとヤキモチを妬いた。


顔はエイジにやっぱ似てるよなぁ…



対バンもしっかり見てから、途中で喉が乾いて二人でバーの方にいくと、テツさんもカウンターの近くで飲んでいたので今日のお礼を言わなくちゃと話しかけた。


「すごいカッコよかったです、ありがとうございました!」


カオリさんが僕より先にそう言って握手してもらっている。すっかりファンになっちゃったみたいだな。


「ありがとな。やっぱエイジは来なかったか。」

さっきのステージでは渋かったのに、飲んでる姿は優しいおじさんって感じでイメージが大分違うなって思った。


「なんでエイジは来たがらないんだろう?」
不思議に思ってそうきいたら、「リンダがいつもいるからな…」ってそんな風に教えてくれた。

「あいつ、なんか勘違いしてんだよな… ちゃんと話さなきゃって思うんだけど、アイツあれから口きかないしな俺には。」

あれからってこの前会ったときかな?


「いや、リンダとはじめてあったときからだろうなあ…」


「じゃあもう何年も話してないんですか?」

「そうだね、だからレンが遊びに来てたときは、数年ぶりにアイツの声聞いたって感じだわ。」



なんか複雑な親子なんだなあぁ…


カオリさんも、テツさんと話したくてうずうずしてたので、それからはなんて事無い雑談を三人でしていた。

テツさんが気前よくおごってくれるから、カオリさんも楽しそうに何杯もビールを飲んでいる。

「カオリちゃん面白いなぁ~ 今度うちの店に飲みにおいでよ。」


そんな風にいってくれたので、じゃあ今週末はテツさんの働いてる居酒屋に行こうって話になっていた。







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