バンビ
モモが上で着替えてる間、俺はずっとその人と向き合ったままなにも話さなかった。

なんか品定めされてんなって思ったけど、じろじろ見られんのは慣れてるから気にしない。

なんか言ってくるかなって思ったけど、いっこうにしゃべらないので俺もモモが来るまで黙っていた。


「あー、コーヒーでも淹れようかなぁ、お父さんも飲むよね?」

モモが気を使いまくってあたふたしてて戻ってきたのが面白い。

かずなりさんは、「ああ」とか返事をしたきり、又黙ってしまう。


それにしても、思ったより小柄な人だな。
ドラマの役によっては、大きく見えるときもあるのに。レンと同じぐらいかな?

親の影響でこの人のドラマはよく見ていた。
それこそ、高校生の役をやってたかなり昔のドラマも。


「俺結構見てますよ、ドラマとか。」

思わずそう話しかけてしまったけど、やっぱり返事はなかった。



「いつから付き合ってんだ。」

やっとそれだけ聞いてきたので、「一ヶ月ぐらい前っすかね?」とすぐ答える。

「1か月前なら、まだビトと付き合ってただろ。」

「ビトとモモが別れてすぐ位ですかね。」

「この前ビトに会ったけど何も言ってなかったぞ。」

ああ、被ったとか思われてんのかな?

「そんなこと普通いわないっしょ。」

あいつはきっと空気読めるから、ベラベラしゃべらないもんな。

「お前が別れさせたのかよ。」

そう聞かれて、ちょっと俺のせいでもあったけど、「そんなんじゃないっすよ」と答える。

「まだ何もやってないだろうな。」

「何もってなんですか?」

やってるけど言えないから適当にはぐらかすと、あっちも娘の前じゃはっきり言えないのか又黙ってしまった。


モモがひきつりながら笑ってコーヒーをもってきてくれる。

「ありがとう」

ふたりで声が揃ってしまった。



いつも、モモの淹れてくれるコーヒーは美味しいなって思う。
どこの店のよりも… 好きな女が淹れてくれるからってのもあるのかね?


「モモ、いくらなんでも早くないか?」
そううなだれながらそう訴えかけているけど、モモは

「エイジ君よく家に遊びにきてたんだよね、蓮の友達だから。聞いてないのお母さんからとか。」
って、普通に話していた。

まあな、ほんとなんか展開が早かったもんなと、我ながらあの時のことを思い出す。



「真面目に付き合ってますから、大丈夫っすよ。」
なんだか面白くなってきてそう言ってあげたら、

「嘘だ、絶対お前手が早そう!」
って速攻否定されて余計おかしくなって笑った。

わかってんじゃん。


「何でそう思うんっすか、自分がそうだったからですか?」

試しにそう言ってやったら、又黙ってしまう。きっと図星だ。
色々噂はあったもんな、俺だって多少は知ってる。
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