バンビ
「親父さん、別居でもしてるのか?」

かずなりさんがちょっと言いづらそうに控えめに聞いてきた。


「別居みたいなもんですけど、週末婚なだけですよ。日曜とかはよくうちに来てます。
会わねーけど俺バイトとかあるから。」

「へえ、今時な両親なんだなぁ…」


母さんのこともついでに聞かれて、小説家だって答えたら、名前を聞かれた。

この人あんまり本とか読まねーだろうなって思ったけど、一応ペンネームを教えてあげると知ってると言う。

「え? 星崎満先生? 今度俺、先生の原作のドラマやるわ! 
うわ、なんか気持ち悪いなこういう偶然…」

そして、まだオフレコだから誰にも言うなよってきつく念を押された。



「出来たよ~♪」

モモがご機嫌な感じで料理をもってきてくれる。

丁度話もキリがよかったので、ついでに俺も手伝うことにした。

いつもここんちに来ると、モモはくるくるとよく働いている。
きっとりんさんが働いてるから、その姿に影響されてるんだろうなって思う。


そうやって家事をしてる姿がとても自然で、本当に好きなんだろうな…



「ありがとう」
皿を運んだりしている俺に、ちゃんとそう言ってお礼をいってくれた。

「いやただ待ってるのもなんだし…」

モモの楽しそうな笑顔を見ると、なんだか照れるな。


かずなりさんは、ずっとちゃぶ台の前に座ったままじっと待ってる。
きっと亭主関白なんだろう。


モモがりんさんと小百合さんを呼びに行ったけど、まだ接客中で手が離せないらしい。

仕方なく俺たち三人で先に食べることにした。


モモが作ってくれたのは、そうめんとなすの挽き肉の炒め物で、他にも生姜やらシソやら薬味がてんこ盛りにあって、箸休めの小鉢なんかもあった。

ちゃんとしてるんだなあ…

めんつゆもちゃんと作ったっぽくて、鰹の良い香りがした。



「やっぱうまいなあぁ…お前ほんと、料理得意なんだな。」

一口素麺を啜って、炒め物も一緒に食べると、自然とそう誉めてしまう。
そういえばこの前ここで飲んでたときに作ってたつまみも美味しかったな。


「当たり前だ、小さい頃からりんに習ってやってんだから。」


かずなりさんはそういうけど、これって当たり前じゃないと思うけどな。

確か、この人の両親も料理人だって言ってたから、昔からちゃんとしたもの食べて育った人なんだろうな。



「でも、私が高校生の頃なんか、何も出来なかったわよ。」

りんさんが仕事にキリがついたのか、そういいながらこっちにやって来てかずなりさんの隣に座る。




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