バンビ
「じゃあさ、モモちゃんにはどれがいいかな?」

モモにもなんかプレゼントしてあげるんだって、小声で言われる。

ちょうどいい、いつも見ているTシャツを教えてあげると、気に入ってくれた。

ショッキングピンクのイングリッシュローズが大きくプリントされている細身の女らしいライン。着ると結構これもまた色っぽくなる。


「サイズわかんねーな、どれくらいかな…」

「モモならこれぐらいっすね。」

即答したら、えってちょっとまじまじと顔を見られる。
何で知ってんだって言いたげに…

「大体見てればわかりますよ…」

適当にごまかしたけど、絶対やったなって思ってるだろうなぁ…



あとは自分の分にって、パンツやら小物やらジャケットまで色々試着したりして、かなりの量を買ってくれた。

こっからここまでって買い物する金持ち、初めて見たし。


店長は始終ご機嫌で、真っ黒なカードを出すジュンさんに愛想よく色々サービスしている。

「エイジ、松本さん荷物多いから運んで差し上げろ。」


そういわれて、まだモモといられると思ったらちょっと嬉しくなった。




両手いっぱいの荷物を抱えて、ヒルズの駐車場に向かう。

モモが気を使って大丈夫とか言ってくれるけど、こういうの慣れてるから大丈夫だよ。

「たくさんお買い上げ、ありがとうございます。またよろしくお願いします。」

車に詰め込んだあと、一応丁寧にお礼を言うと、逆にジュンさんからもお礼を言われた。

「ありがとな。桃ちゃんは俺にとっても娘みたいなもんだからさ、これからもよろしくな。」

そういって右手を出されるので、しっかりと握手をさせてもらい、桃に手を振ってバイバイをした。







車が見えなくなるまで見送ると、なんだかどっと疲れてしまった。

ただでさえ、桃が来てると緊張するのに。


店に戻る途中、表参道を歩いていると、道路の反対側に知っている女が目に留まった。

ああ、リンダだ、遅番だとこれぐらいがランチかな?

俺のことには気付かずに、横道に入っていってしまう。確かあの先に、よく行くって言ってたカフェが合ったっけなあ・・・

なんだかその後姿が懐かしかったけれども、不思議と追いかけたいとかそういう気持ちにはならなかった。

ほんの一月前には、恋しくて恋しくて仕方なかったはずなのに、もうそんな隙はなくなっているんだな。


桃は何もいわなくても、きっとあいつのこと気にしてる、それがいつもわかってるからどうしていいか判らないけど、きっと大丈夫だよって思う。

今日もいい天気だな・・・



そういえば、次の日曜日には、蓮たちと野音のライブに行く約束をしていた。
モモも一緒に行くことになっているから、彼女はとても楽しみにしている。

あそこなら安全だろうとは思うけど、昔パンクのライブで大きな事故もあったくらいだから、油断は出来ないなってちょっと思う。

我ながら、モモのことを思うと過保護だなって思ってしまう。
そういうところが、かずなりさんに似てるのかなって、ちょっと思い出したらなんだか可笑しくなって一人でニヤついてしまった。


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