バンビ
会場に入ってまず飲み物でも買おうと売店に向かった。

まだ飲みたいなぁなんてさりげなくビール買おうとしたら、モモが睨むので慌ててお茶にする。

こんなに天気がいいからよ~

モモに言い訳したけど、きょうはもう我慢しよう。


チケットを見ながら指定席を探すと、ちょうど関係者のエリアの近くだった。
なんかヤバそうな予感がする、見たことあるような人がいっぱい居るし、声かけられたらめんどくせぇとか思ってたら案の定すぐに声をかけられてしまう。

「あれ、エイジ?珍しいじゃん、こういうのくるっけ?」

いつも親父の出るようなパンクイベントでDJをしてる石井さんだった。
そう、俺はこういうジャンルは滅多に来ないって、みんな知ってる。

適当に返事をしていると、すぐモモが連れだと気付かれてしまった。
まあ、ずっと手繋いでたしな…

「新しい彼女?」
なんて余計な言い方するから、一瞬びびる。

違うわ、初めての彼女だわって反論しようとも思ったけど言えなかった。
モモはいつものように愛想よく挨拶をするから、石井さんも一瞬でだらけた顔になる。

「可愛いねぇ~」
語尾にハートマークまで見えるから、もうこの席はヤバイと思ってモモを連れて後ろで見ることにした。


そっか、石井さん居るなら、あの人もこの人も居るはずだと、知り合いの顔が思い浮かぶ…

一番後ろの手すりにもたれて、モモが楽しそうにステージを見てるから、俺はそれを隠すように後ろに回り込んで立っていた。

モモの手に自分の手を重ねると「暑くない?」なんて聞いてくるから、大丈夫って答える。

ちょっと帽子が邪魔だけど、この体制ヤバイかも… テレる… 自分でやっておいて恥ずかしくなってきた。

モモが振り向きそうになるから、こっち見ないでって思わず言ってしまった。

「誰にも見せたくない…」

俺って、こんな束縛するタイプだったんだなぁ



「なにやってんだよ…」

いつの間にかレンが後ろにいて、俺たちをちょっと睨んでる。

大事な妹に手を出してくれんなって感じか。
やっぱこいつ、シスコン入ってるなってたまに思う。



ライブが始まると、レンはあっという間に前の方に駆けていってしまい、ご機嫌に仲間たちと踊りまくっていた。
俺たちも自然と音楽に合わせて身体が揺れる、モモも楽しそうでよかった。

一バンド終わるごとにレンがこっちに来て様子をうかがうから、相当気にしてんだろうなって思うけど、大丈夫だっての。

って言うか、お前の彼女はどうしたんだっていってやったら、あっちにいるってすごく騒がしい団体の真ん中で、ビールをのみ続けていた。

なんか小柄なクセに、パワフルな姉ちゃんだなぁ…



「エイジ君、私お手洗いいってくる。」
モモがそういうので、心配だから俺も一緒についていった。


ついでに自分の用も足して、トイレの前で待っていると、何人も声をかけられて知り合いと話したりもしていた。

「そういや、この前テツさんの店行ったら、リンダも来ててさ、エイジとずっと会ってないって言ってたけど、お前らどうしたんだよ?」

そんなことを聞かれた。

「別に、会う必要もないし…」

ちゅーかさ、みんなして親父の店で飲んでんなよ、安いからって…

「そうか?でもあいつ寂しそうだったぞ。」

そんな風に言われて少し胸がざわつく。
もう忘れかけてたのにな…


その人がいってしまうと同時にモモがトイレから出てきて、一緒にもと居た場所に戻る途中、また違う人にバッタリ会ってしまう。

もう又かよ…

「あれ?エイジじゃん、珍しいなこういうとこで会うの。」

みんな同じことばっかり聞くからめんどくさい。

「リンダは?」

今度はダイレクトに聞かれてマジでやめてくれって思ったけど、
「知らねーよ、アイツはこういうところ来ねーだろ!」

キレぎみでそう言ったら、わりぃってニヤついて謝られた。

後ろのモモがどうしてるか気になる…



「あれ、その子エイジの連れ?」

やっぱり今度も気づかれて、同じように可愛いねぇ何て言われるから、マジでもう帰りたいとか思う。

適当にさっさとその場を退散して、又モモを隠すようにライヴの続きを見た。
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