バンビ
「エイジ君、友達たくさんだねぇ…」

モモが含みを帯びた口調でそんな風にいう。
絶対気にしてる、話題変えたいって思いながら「スカとパンクってジャンル被ってるからなぁ」なんて答えると、急に確信に迫ってくる。


「で、リンダさんってのが、この前のラフォーレのお姉さん?」





「そうだよ…」

思わず正直に答えてしまった。


「もう会ってないんだよね?まだ気になる?」

「もう会いには行かないよ…でも、どっかでバッタリ会いそうで怖い。」

偶然でも会ってしまったらどうなるんだろう俺。
自分の気持ちですら、よくわからなくなる時がある。





しばらく二人とも無言でずっとトランペットのソロに聞き入る。

その音が、ちょうど夕暮れの空とあいまって綺麗だ。


「きれいだね…夕焼けって…」




「夕焼けを見ると、なんだか泣けてくるな…」


帽子の陰に隠れて、モモの表情は見えなかったから、こっそりと潤んできた涙をこらえていた。


ずっと小さな頃、夕焼けをずっと見ながら迎えを待っていた。真っ暗になっても誰も迎えに来てくれなくて、先生が困っていたっけ。

あのあと俺はどうしたんだっけ? 保育園の頃だ、悲しかったことしか覚えていない。



”夕暮れが僕のドアをノックする頃に
あなたをギュッと抱きたくなってる”



日が落ちて辺りが暗くなって、俺は思わずモモを後ろから抱き締めていた。

モモの温もりが、大丈夫だよと伝わってくるようで、安心する。

それと同時に、又いつものムラムラした気持ちも沸き上がって来てしまってヤバイ…


「モモ、俺ダメかも、待てないかも…」

モモの首筋に顔をうづめると、いつものいい香りがする。

「待てないって?」
そんな風に聞いてくるから、ヤりたいって又正直に口に出してしまった。

「え?やらないっていったのエイジ君だよね?」


ビックリして急に振り返るから、思わず頬にキスしていた。


「でもしないよ、今日はこれで充電して我慢する…」




モモはそれから、なにも聞かなかった。






ずっとこのまま、曖昧なままでもいいかな?






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