バンビ
僕達は代々木駅で別れて、僕は駅からバッティングセンターまでランニングで向かった。


この前の試合で行った、神宮の第二球場のすぐそば。
お父さんとかともよく行くところだ。

この前の試合のときは、カオリさんも応援に来てくれた。
僕はまだレギュラーじゃないから、出番はほとんどなかったんだけど、カオリさんが観覧席から大きな声で応援してくれるのがすぐわかって、ちょっと恥ずかしかったな。

お弁当も作ってきてくれたりして、後でみんなに冷やかされたっけ。


野球部の先輩達は、ストイックな人が多い。
そんな先輩達のファンの女の子もたくさんきていたけれど、彼女とかいる人は少ないと思う。

だから僕なんかは、先輩から色々言われたりするけど、エイジのまねして気にしないことにしていた。


だってさ、やっぱ彼女の応援が、一番の活力になるんだもん。
他の部員だって、なんだかんだ言って、女の子に応援してもらったほうが良いに決まってるじゃん。



バッティングセンターに着くと、軽くストレッチをした後、バッティングを始めた。


機械ではじき出される玉は、まっすぐ飛んでくるから、かなり打ちやすいのでガンガン打てる。
そんな感じで、バンバンホームランを出していたら、なんとなく回りに外野が増えていてびっくりした。


「あれ、秀徳の二宮じゃね?」

隣のボックスに入ってきた男子に声をかけられて振り向くと、この間のライバル校の同学年の山下ってヤツだった。


「おう、なにお前も自主練?」

挨拶程度でしか話したことなかったけど、なんとなく返事をしてしまった。


「お前みたいなヤツでも、練習してるんだな。」

ちょっと含みのある言い方にカチンと来たけど、気にしないでバッティングを続けた。


僕が打つたびに、隣でも続けてガンガン打ち続けている。
2人で競うようにホームランばかり出していたら、余計野次馬が集まってくる。


確かあいつの高校は、今年初出場の学校だったから、一年でもヤツはレギュラーだった。


一通り打ち終わって休憩していると、相変わらず山下は上手に打ち続けている。

よく観察してみると、フォームも綺麗だし、芯がぶれてなくてやっぱりうまいなって思う。
さすが一年でレギュラーだな。


あいつも打ち終わったと思ったら、何故か僕が座っていたベンチの隣に来て、一緒に休憩しだした。



「二宮の両親って有名人なんだろ。なんかそういうのばっか注目されててさ、気に食わなかったけど、お前も結構やるのな。」

そして何故か、そばにあった自販機でアイスカフェオレを買ってくれて、やるよといって僕に投げてきた。

「ありがとう、でもなんで?」

久しぶりに飲む甘いコーヒーを遠慮なくいただいていると、何だか不思議な気持ちになった。

「ちょっとお詫びって言うかさ・・・秀徳なんて、みんなすかしたヤツばっかだと思ってたけど、違ってたし、補欠のヤツもみんな実力あるんだなってさ。」



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