バンビ
「エイジは大丈夫、ちゃんと幸せになれるよ。あんなに両親に愛されて育ってきたんだもの。」

リンダが穏やかにそんな風に言うから、

「そんなことねえよ・・・」

うまく言葉に出来ずにいる。


「ちゃんと鉄さんと話さないとダメだよ・・・ずっと話してないんでしょ?」

まるでリンダは姉ちゃんみたいだなって、初めて思った。

「わかったよ、どいつもこいつもおせっかいばっかだな・・・」



ああ、俺の周りには、心配してくれる仲間がたくさん居るんだなって改めて思う。
親父とも店に戻ったら、ちゃんと話そうと初めて思った。




「早く戻らないと、彼女心配しちゃうよ。」

「そうだな、そろそろ戻るか。」


さりげなく彼女の手を取って、そのまま手を繋いで歩く。

最後ぐらいいいだろう?
ずっとこうして、二人で歩きたかったんだ・・・


「でもさ、今後もきっとどっかで会っちゃうよね・・・
そのときはさ、もう本当の友達として会おうよ。」

そうだ、たとえこの関係が終わったとしても、一生のさよならじゃないんだよな、きっとこれからも会うんだ。

「うん、わかった。」

やけに素直に答えてしまって、それでいいのかとほんの一瞬思ったけれど、きっとこれでいいんだ。


「今度会うときは、もう逃げるなよ。」

リンダの頭を軽く小突くと、わかったと言って笑っている。


親父の店の前に着くと、もうここで帰るとリンダは急に言い出した。

もう戻りずらいもんな・・・

「じゃあ最後ぐらい奢ってよね。」

そんなのはじめからそうつもりだったって・・・


「鉄さんやみんなによろしく言っといてね。」



リンダはそういうと、振り向きもせずにずっと最寄り駅までまっすぐに歩き出す。


「元気でな!!」


俺はその後姿に向かって叫んでいた。
< 255 / 266 >

この作品をシェア

pagetop