バンビ
一人で店にはいると、親父にリンダはどうしたって速攻聞かれる。

「もう帰るって行ったよ。あいつの分、俺んとこ付けといて。」

そんな風に言うと、何大人ぶってんだって笑われた。



「ちゃんと好きだったっていえたか?」

恥ずかしげもなくそう聞いてくるから、言ったよって思わずもれる。


「あいつからはどうだった?好きだって言われたか?」

「そういえば、それはないな・・・」

なんとなくだけど、そうじゃないかとは思ったものの、最後までリンダはそれを言ってくれなかった。


「言ったら戻ってきちゃうとでも思ったのかもな・・・」


正直ハッキリそういわれたらどうなっていたんだろうか?
モモを切り捨てて俺はリンダの元へ戻ったのだろうか?


いやもう、一回壊れたものはもう戻らないだろう・・・




俺はさっき居た席に戻ると、お帰りってモモが言ってくれる。

目の前のレンとカオリンに気付かれないように、そっとモモの手をまた握っていた。


「ちゃんと終わらせてきたからな。」



三人にそう伝えると、そうかってカオリンが深い溜息をついた。



「リンダちゃんは帰ったの?」

「ああ、帰ったよ。」


あんな話した後、ここに戻れるわけねーだろって思う。



「エイジ君、ちゃんと覚えててね、今日のことも今までのことも。忘れるなんていわないでいいから・・・」


モモがそんな風に言ってくれるのが不思議だった。

「お前はそれでいいのかよ?」

普通なら、過去の女なんか忘れてほしいはずだろ?




「私たち同じだって言ったのエイジ君じゃん、私だって忘れることなんて無理だもん。
いろんな辛い傷痕(カコ)があって今があるって、私だってわかるよ。」



「ああ、ゴメン、私余計なことしたかなあ・・・リンダちゃん大丈夫かなあ・・・」


何故か一人で、カオリンが号泣してるので、やけにおかしくなってなんで泣いてんだよって言ってやる。


「だって、みんながハッピーにならないと嫌だから…」

そんなことを言うカオリンを、レンが必死になだめている。


「あのさ、別に彼氏がいないとか別れたとか、それだけで不幸とは限んないじゃん。
リンダさんはさ、色々開放されて、楽になったのかもよ? しばらく彼氏とか要らないって思うかもしれないじゃん。」


「いいこと言うな」

親父が頼んでいたらしい唐揚げを持ってきながら、レンに笑ってそういった。


「カオリちゃん、大丈夫だから。リンダのことは、俺とミチルでちゃんとフォローするし。
今までさんざんエイジのお守りさせてたからな。」


お守りってなんだよって、ちょっとカチンと来たけど、思い返すとそうだったかもしれないなって思う。

俺はいつも、あいつに一方的に気持ちをぶつけるだけだったもんな…



「その子が彼女か?」

「ああ。」

そういえばちゃんと紹介してなかったな、親父には。



「二宮桃です、はじめまして。」

モモは立ち上がって、こんな親父にも丁寧にお辞儀をした。


「高橋鉄です、よろしくね。こいつ強がってるけどガキだから、色々面倒かけるかもしれないけど、仲良くしてやってな。」

「私の方が、いつも我儘ばっかり言って、困らせてばっかりだから。その、エイジ君は大事にしてくれてますから大丈夫ですよ。」

モモにそんな風に言われると、やっぱり照れる。



「いいじゃん、わがままなのは素直ってことだろ?そういうの言わないやつがほんとにガキだって言うんだよ。若いうちはさ、なんでも突っ走って失敗すりゃいいんだよ。」


カオリンにおかわりはって聞いて、じゃあビールなんて話ながら、親父は言いたい放題言ってまた仕事に戻っていった。





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