バンビ
「あれ?ビトじゃん、なにしてんの?」



奴は周りに人がいないか、きょろきょろ見渡している。
気付かれると厄介だからだろうな。



「うん、ちょっとね、たまたま近くで撮影があったから。
ねえ、何時にバイト終わるの?」

綺麗な顔が間近に迫ってきて、男だってわかっていてもちょっとドキッとする。


答えようとしたとたん、メールの着メロが流れて、ヤバイって思った。



「携帯鳴ってるよ、いいの?」


「ああ、大丈夫。どうせメールだから。
今日は7時であがる予定だけど、なんで?」



ビトは小声になって、ナイショ話でもするようにこう言った。


「ちょっと話しがあるんだけど、バイト終わったら付き合ってよ。」




なんとなく断りきれなくて、そのまま良いよって言ったら、じゃあ終わったら連絡してと自分の名刺を差し出すと、その裏になにやらメモ書きをしてそれを俺に渡した。


「こっちがプライベートのメアドと番号だから・・・」


それだけ言い残すと、奴は手を振ってさっさと店を出て行ってしまった。




話ってなんだろう??

なんか、モモのことでも疑ってんのかな?

まだ何もやってないんですけど。


ちょっとそんなことを気にしながら、さっききたメールをチェックすると、やっぱりモモからの返信だった。



”今おじいちゃんのところで、お花のお稽古してるの。
今夜はそのまま泊まってくんだ~♪

エイジくんも、バイト頑張ってね☆”



へえ、あいつお花なんかやってるんだ。

そういえば、じいさんが何とか流の家元とかいってたっけ?

あいつんちって、一見庶民的なわりに、色々すごいんだよな。
わざと、そういう生活させてんだろうか?お嬢のくせに。






その後、簡単にメールのレスを出すと、急に店が忙しくなってきて、あっという間に時間が過ぎていった・・・
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