バンビ
「レンのお父さんってさ、うちの父さんと同じ仕事なのに、割といつも家族と一緒にいる感じがする。
あんまり外出が好きじゃない人だからみたいだけど、やっぱ羨ましいよ・・・」




ああ、そうなんだ。

なんとなく、レンとモモを見てると、両親に大事に育てられてきたんだろうなって、幸せいっぱいで暮らしてたんだろうなって、そんな気がする。

だから、二人と一緒にいると、こっちまでなんかその幸せが伝わってくるような気がするんだな。




「なんていうかな、あいつらってずっと一緒にいたいって思える、なにか不思議なもんがあるよな。」



そうだよねって、ビトは大きく頷いた。


俺もビトも、父親と離れて育った、小鹿のバンビなんだ。





「僕はずっと、レンになりたかったよ。
ずっとモモちゃんと一緒で、お父さんとも一緒に暮らせていて、羨ましかった。」


空になったグラスを、じっといじりながら、ビトはちょっと淋しそうだった。



「今の事務所に入れたのだって、レンがスカウトされたからなんだ。
レンはやりたくなかったのに、僕が無理やりオーディション受けたいって相談したら、あいつが会長さんに話してくれてさ・・・
あのまま、一緒にJrになってたら、絶対あいつの方が人気出たと思うよ。」


「確かに、レンのほうが、お前の事務所向きのアイドルって感じだもんな。」


そう、なんていうか、いつまでも少年のままみたいな、そういう可愛らしいタイプの方が、あの事務所のカラーって感じがするしな。

ビトみたいな完璧なイケメンは、あの事務所に限らずもっと違う方面にいってもおかしくないのに。




「でもさ、母親が世界的に有名なシンガーで、父親も未だにトップアイドルで、自分自身も人気タレントなのに、普通ならビトのほうが男から見たら羨ましい所ばっかりな気もするぜ。」


彼女も可愛いしってつけたしたら、ビトは急に照れたように頬を染めた。
< 67 / 266 >

この作品をシェア

pagetop