もしも、世界が美しかったら
由輝ちゃんを過去の人物なんかにしたくなかったから。
幸せで楽しかった思い出なんかにしたくなかったから。
あの頃は由輝も一緒に、なんて…そんなの耐えられないから。
―――――愛輝……
不意に名前を呼ばれた気がした。
(だいすきな、あの声で)
「ッ……由輝ちゃん!?」
でも、やっぱり振り向いても誰もいなくて………静かに風が吹き抜けるだけ。
「…ふっ……ッッ」
手の届かないところまで行ってしまった由輝ちゃんは………
もう二度と振り向いてくれない。
「う…あ……っ」
でも、ね?
あの日の夕焼けの景色も、
それを見つめる横顔も………
まだ私の中じゃ、過去のモノなんかじゃないの。
心の中に刻まれた時間と、肌に染み込んでいる温もりと共に生きている。
「あぁ……ッッ…」
だって、ほら……
掌の温もりも、優しい笑顔も、
風になびく髪も――……
まだ、なにひとつ消えてない。
―――――こんなにも、綺麗に、鮮やかに、色濃く残ってる。
「うっ…ぁぁあああぁああ!!」
太陽が浮かぶ真夏の青空を見上げ泣き叫んだ。
ボロボロ、ボロボロと止まることなく溢れ流れていく涙。