実話〜頭文字(initial)─K─
きっと、この事故を知って集まって来たご近所の誰かが警察に通報したのでしょう。
暫くすると、赤い回転灯を光らせながら警官の乗ったパトカーがやって来ました。
車のドアを開け、事情聴取用のバインダーを抱えて颯爽と降りて来た警察官は、軽自動車を見るなり……
「ああ、結構酷いな……人身事故って聞いたけど、被害者は大丈夫なのか……?」
そして、顔をしかめて
「救急車はもう呼んだのかね!被害者の方はどうしたんですか!」
その警察官の問いに、Kさんは作業中の軽自動車の影から顔だけ覗かせてニッコリと笑いながら……
「あっ、被害者オレ♪
オレが轢かれました♪」
「…は……?」
仕事途中で会社を抜けた為にツナギを着ていて、なおかつ軽自動車のバンパーを一生懸命こじっているKさんの姿は、どう見ても《出張修理で呼ばれてやって来た自動車修理工のオヤジ》にしか見えません!
「あの人が轢かれた人です……」
運転手の女性が真面目な顔で指差すのを見た警察官は、酷い有り様の軽自動車とKさんを代わる代わる見比べながら、ずいぶん慌てた様子で、Kさんの方へと足早に近づいて行きました。
「ちょっとアンタ!体は大丈夫なのか!
痛い所とかあるだろ!」
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