実話〜頭文字(initial)─K─
新しいセンターキャップを持ったセールスマンの後を尾いて行くと、そこには例のお客さんが待っていました。
車は新車価格二百万円を少し超える位の2ドアクーペ。その傍らで腕組みをして立っているのは、二十代前半位に見える男性のお客さんです。
「なんだ、まだ小僧じゃねぇか……」
お客さんとセールスマンのすぐ近くまで行かなかったのは正解です。
Kさんときたら、思った事をそのまま口にするものだから、お客さんに聞こえようものなら大変ですよ!
距離がある為に、こっちの声が向こうに聞かれない代わりに向こうの話し声もこっちには届かないのですが……身振り手振りで大体の事は分かります。
車の屋根をさすりながら、不満そうな顔でセールスマンに話し掛けているそのお客さんは、その後車の前方に回りバンパー辺りを指差しています。
恐らくは、塗装の仕上がりが気に入らないのか、それとも外装部品の合わせ目の隙間が気に入らないのか……容易に想像出来るのは、走行には全く支障の無いかなり些細な事柄だという事です。
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