実話〜頭文字(initial)─K─
やがて、お客さんは車を店に預け容易された代車に乗って帰って行ったのですが、その様子はあの時のクレーマーの彼とは別人のような腰の低さだったのに驚きました。
きっと、Kさんの『キレイに直っても《事故車》は《事故車》』という言葉がよっぽど身にしみたのかもしれません。
「車なんてのは、走りゃあいいんだ♪走りゃあ~♪」
そう言って笑うKさんの姿を見ていると、何故だか僕もそんな気分になってくるから不思議なものです。
「それにしても、たった0.5ミリで大騒ぎしてた車がこんなになっちゃうんだもんな……なんだかちょっと可哀想……」
変わり果てた新車のクーペを見つめながら、僕がそんな事を言いかけたその時です。
「おい!コレ見ろよ、コレ!」
横にいたKさんが、ある事実に気が付き嬉しそうな声を上げました。
「あっ!!」
「あのホイールキャップ、キズひとつ付いてねえよ♪ヨカッタな♪」
「アハハハハハ♪
でも、今更どうでも良いですけどね♪」
「そりゃそうだ♪」
「ハハハハハハ♪」
お客さんの事故車を見ながら二人して大笑いしている僕とKさんは、周りの人から見れば、何とも不謹慎な二人に映っていたかもしれません……
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