実話〜頭文字(initial)─K─
「八代亜紀だっ!」
「いや、橋幸男だよ!」
仕事そっちのけで数分間、二人の討論は続きました。
そして、互いの意見は平行線をたどったまま、二人は僕のいる方へと向かって来たのです。
「よし!こうなったら、第三者の意見を聞いてみようじゃね~かっ!」
どうやら、決着のつかないこの話の判断を第三者の僕に委ねようというらしいのです。
「なぁ~。お前だったら『雨の歌』って言ったら何だと思う?」
予想通りKさんが僕に向かってその話を持ちかけてきました。
「『雨の歌』ねぇ……
そうだなぁ~雨って言ったら、やっぱり……」
そう呟いて工場の天井を見上げる僕を、痛い位の熱い眼差しで見つめるKさんとケンジさん。
「やっぱり?」
「やっぱり……」
「森高千里の『雨』かな……」
「も・森高・・・・・・・」
そりゃ、そうなりますよ。世代が違いますから……
「あ~~!やめやめっ!仕事だ仕事!」
すっかり肩すかしを食らった二人は、言い争っていたのが馬鹿らしくなったのか、すごすごと仕事に戻って行くのでした。
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