実話〜頭文字(initial)─K─



「あれ、店長の車じゃね~のか?」


「本当だ……」


洗車場に店長の車……


その光景は、僕達にとって非常に珍しい光景だったのです。


この頃、店舗には“洗車機”という物が設置されていなくて、洗車は全て人の手による手洗いでした。


面倒臭い事が嫌いな店長が、自ら車を洗車している所など、はっきり言って見た事が無かったのです。


その為、本来パールホワイトである店長の車は、埃にまみれほとんど灰色に近い色をしていました。


その店長の車が洗車場に停めてある事に、僕達は妙な違和感を覚え、二人してその方向を見つめていたのです。


「店長、あれ洗うつもりなのか?……こりゃ、明日は雨が降るな♪」


めったに見る事の無い光景に、そんな皮肉を口にしてKさんは笑っていました。



しかし次の瞬間、僕達はそんな自分達の予想が間違いであった事を知るのです。



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