実話〜頭文字(initial)─K─
「Kさん、あれ店長じゃ無いですよ……」
埃を被ったあの車自体は間違いなく店長の車だったのですが、その車にホースで水をかけ、洗車を始めようとしていた人間は店長では無かったのです。
「誰だあれ?」
「確か、今年入った新入社員じゃなかったかな?」
これがどういう事なのか、Kさんにも僕にも容易に想像がつくというものです。
「ふざけた野郎だな!」
「職権乱用も甚だしいですね!」
その新入社員の様子を、不機嫌そうな顔つきで眺めていたKさんは、やがて立ち上がるとその現場へ向かって歩いていったのです。
言うまでもなく、あの車は店長の私有物であり、新入社員だからと言って、彼が店長の車を洗車しなければならない理由なんて、これっぽっちもありません。
そういった筋の通らない事が、Kさんはとても嫌いでした。
僕は、もしやKさんが店長の所へと怒鳴り込みに行くのではないかと、心配になって後をついて行ったのです。
.