実話〜頭文字(initial)─K─



「Kさん、あれ店長じゃ無いですよ……」


埃を被ったあの車自体は間違いなく店長の車だったのですが、その車にホースで水をかけ、洗車を始めようとしていた人間は店長では無かったのです。


「誰だあれ?」



「確か、今年入った新入社員じゃなかったかな?」


これがどういう事なのか、Kさんにも僕にも容易に想像がつくというものです。


「ふざけた野郎だな!」


「職権乱用も甚だしいですね!」


その新入社員の様子を、不機嫌そうな顔つきで眺めていたKさんは、やがて立ち上がるとその現場へ向かって歩いていったのです。



言うまでもなく、あの車は店長の私有物であり、新入社員だからと言って、彼が店長の車を洗車しなければならない理由なんて、これっぽっちもありません。


そういった筋の通らない事が、Kさんはとても嫌いでした。


僕は、もしやKさんが店長の所へと怒鳴り込みに行くのではないかと、心配になって後をついて行ったのです。



< 59 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop