実話〜頭文字(initial)─K─



Kさんは、車を洗おうとしていた新入社員に近付き、こう尋ねました。


「それ、店長に洗えって言われたのか?」


「そうなんですよ……」


不満そうに、口を尖らせて答える新入社員。


勿論、不満に違いありません。しかし、店長相手に「嫌だ」とも言えず、不本意ながらも洗車を始めようとしていたところでした。





「どれ、ホース貸せ!
俺が洗ってやる!」


「えっ?」


突然やって来て、ホースを貸せと言うKさんを、新入社員は驚いた表情で見つめていました。


そもそも、その新入社員はKさんの事をほとんど知らなかったに違いありません。


そのKさんが、自分の代わりに車を洗ってくれると言うのですから、驚くのも無理はないでしょう。


「いや……いいですよ、悪いですから」


当然、新入社員の彼は、遠慮がちにKさんの申し出を断ったのですが、Kさんは「いいから、いいから」と、その新入社員の持っていたホースを取り上げてしまったのでした。



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