実話〜頭文字(initial)─K─
「店長、いただきま~す♪」
昼間のわだかまりは消え、沈みゆく夕陽をバックに、缶コーヒーを飲む三人。
いつか、Kさんが僕に教えてくれた事があります。
「喧嘩っていうのはな、自分が勝っても、相手には逃げ道を用意してやるもんだ!徹底的にやるのは、喧嘩じゃなくて“いじめ”って言うんだ!」
今回の場合、逃げ道というのは、店長の面目であったのだと思います。
Kさんが店長の車を最後まで洗う事で、店長の面目は立ったのではないでしょうか。
「じゃあ俺、そろそろ会議に出掛けないと!」
店長は、時計を見ながらそう言うと、車に乗り込み窓を開けて僕達に挨拶を交わしました。
「それじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃ~い♪」
走り出す車に向かって手を振る、Kさんと僕。
しかし……その時、僕は見てしまったのです。
颯爽と走り去る店長の車のリアバンパーに、たった1カ所だけ洗い残しがあったのを……
『バカ店長』
「あっ!洗い忘れた♪」
絶対、わざとです……
Kさんとは、そういう人なのですから……
.