実話〜頭文字(initial)─K─



それから、一週間程が経ったある天気の良い日の事でした。


「とりあえず、そっちに持って行くから」


Kさんはあらかじめ親父さんに電話をしてから、あの豚を苦労してトラックの荷台に乗せ実家へと連れていったのです。


実家へと連れて行ってしまえば、文句を言われようが何しようが向こうで飼ってもらえるだろう。Kさんとしては、そんな思いだったのでしょう。


「お前、あの豚持って来たのか?」


「あぁ…今、庭に降ろしてあるよ!」


そして、Kさんは改めて親父さんに豚をこの実家で飼ってもらえないかと頼んだのです。


あまり人に頼み事などした事が無いKさんでしたが、今回ばかりは特別でした。何しろ、犬や猫と違ってあんな大きな豚は他の一般家庭に引き取ってもらう訳にはいきません。


「なぁ~あの豚、ここで飼ってやってくれよ!」


ところが、そんなKさんに対する親父さんの答えは……


「えっ?お前、あれウチで飼ってもらうつもりだったのか……でも、俺もう業者に電話しちまったぞ!」


「なにぃ~~っ!」


そもそも、Kさんと親父さんとではあの豚に対する思い入れの強さが違います。


たった半年でも子豚の頃から世話をしていたKさんと、親父さんでは考え方が違うのも無理のない事でしょう……Kさんも薄々そんな予感はしていたのですが、まさか親父さんがそんなに早く手を打っているとは思ってもいませんでした。



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