実話〜頭文字(initial)─K─
「実は今、ある被疑者の自宅の張り込みをしている最中でして……あまり大声を出されて被疑者に勘付かれてはマズイのですよ」
立ち小便の男が、Kさんに怒鳴られながら「あまり大声を出さないで」と言ったのも、それが理由だったのでした。
それなのにKさんときたら、男の胸ぐらを掴んでなおさらに騒ぎを大きくしようとするのですから、仲間の刑事達が慌てて止めに出て来たのも仕方の無い事です。
「へえ~~。アンタ達、刑事なんだ!」
それを聞いたKさんは、先程の怒りは何処へやら、この刑事ドラマさながらの出来事に興味津々といった様子です。
「それで、犯人の家ってのはいったいどの家なんだ♪」
「いや、そういった事は捜査上の事ですので……」
「あの辺りか?それともあっちか?」
「いや、ですから……」
もう、早く何処かへ行ってくれと言わんばかりの表情の刑事達に構う事無く、Kさんはどうしても被疑者の家を聞くまでその場を離れないといった様子です。
その、しぶとさに根負けし、とうとう刑事は被疑者の住んでいる家をKさんに教えてしまうのでした。
「あそこですよ!あのアパートの右の角の部屋!」
それを聞いたKさんが、ポツリと一言。
「なんだ、〇〇(被疑者の名前)のとこじゃねぇか……」
「えっ!〇〇をご存知なんですか!」
「そりゃ知ってるさ、あそこまでは同じ組だからな。
そうか……あの『悪党』なら頷けるよ」
まるで、何かを知っているような口ぶりのKさん。
そのKさんの口から発せられた『悪党』という言葉に、刑事達は異常に興味を示したのです。
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