実話〜頭文字(initial)─K─




「あ…………」


戻って来たKさんの姿を見た刑事の一人が、呆気にとられた表情で声を洩らします。


Kさんが家から持って来た物……


それは、刑事に差し入れする温かい缶コーヒーなどではありませんでした。





「ほらっ、これ貸してやるから小便しった所しっかり掃除しとけよ!」


Kさんが家から持って来た物は、水の入ったバケツとデッキブラシでした。


これを刑事に渡し、自分で汚した所は自分でしっかりキレイにしておけと言うのです。


「いや、あの……我々、今『張り込み』の最中でして……」


やんわりと拒否しようとする刑事に、Kさんのキツイひとことが飛びます。


「確か、立ち小便てのは『軽犯罪法違反』じゃ無かったっけ?」


「………………」


これを言われたら、刑事にはもう返す言葉はありません。


無言でバケツとデッキブラシを受け取り、垣根の掃除を始めた刑事に背を向け、Kさんは空を眺め大きな伸びをして言うのでした。


「いや~今日もいい天気だ♪
犬の散歩に出掛けるか♪」


そんなKさんの背中を見つめ、刑事は今後絶対に立ち小便はするまいと、心に誓ったに違いありません…………




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