ADULT CHILDREN
数少ない幸せな思い出がある。
父が深夜お酒を飲んで帰ってきた時の事だ。
眠れないと父の元へ向かうと、いつもなら冷たく追い返されるのにその日だけは気分がよかったのか絵本を一冊読んでくれた。
私が大好きな絵本を、父は優しく温かい声で読んでくれた。
母も弟もいない、父と私の二人だけ。
私が得意げにひらがなを読むと父はすごいなと笑顔を見せてくれた。
この時間が続いてほしい。
もう一度読んで欲しい。
そう思いながらも私は本を読んで貰うと自ら部屋に向かった。
わがままを言って嫌われる事を恐れていたから。
ほんの数分だったけど、私の中でそれはとても幸せな出来事だった。
お父さんは優しい。
お父さんは自分を愛してくれていると思えた。
だけど与えられた小さな愛は、続く事も増える事もなかった。
そしてその愛に縋りたいが故に
私はいずれ大きな代償を払う事となる。