ADULT CHILDREN
深夜、遅く帰ってきたけんちゃんが
いつものようにただいまと言ってくれる事はなかった。


「紗枝は?」


私が事情を説明しても、心配なのかスーツも脱がずに携帯を取り出していた。




ベッドに入り、背中を向けて眠るけんちゃんの腕を自分から取り、その胸の中へとうずくまる。

もう二度と抱かれる事はないと溢れる涙に気付かれないよう何度も欠伸をするふりをした。



「けんちゃん…まだ紗枝の事好き?」


私の言葉にけんちゃんは慌てる事もなく、冷静に答える。


「好きじゃないけど、もう長い付き合いだから気になるんだよね。心配?」


腕枕をされてけんちゃんに背中を向けた。


「心配じゃないよ。だってけんちゃんは私の事が好きなんでしょ?」


「そうだよ」


「ちゃんと言って?」


「さえこが好きだよ」


本当は

その言葉に縋りたかった。

信じたかった。


「シャワー浴びてくるね」


揺らぐ想いを振り払うように体を起こし、バスルームへ向かった。
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