ADULT CHILDREN
シャワーで涙を流し、暫く湯舟に浸かって
けんちゃんが眠る頃に出る。


予想通り、ベッドではけんちゃんがもう深い眠りについていた。
起こさないようにそっと隣に入る。


眠っているけんちゃんの手を握りしめ
心の中で何度もさよならとありがとうを繰り返した。

ずっと
眠っているけんちゃんの顔を見ていた。






目が覚めた時、自分がいつの間にか眠ってしまっていた事に気付いた。

隣にいたはずのけんちゃんはもういない。


眠るんじゃなかった。


もっとけんちゃんを覚えておきたかった。



後悔しても何かが変わるわけじゃない。


毎朝置かれている手紙。


その裏に手紙を書いた。




(家に帰ります。今までありがとう。ごめんね。仕事頑張ってね。)



それをポケットに入れ、朝食を食べて荷物をまとめ、クローゼットに隠した。


昼前に紗枝が来たけど、今日出て行く事は言わなかった。


きっともう、紗枝に会う事もないだろうと、色んな話をしてずっと笑っていた。


すべてを悟られないように。


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