ADULT CHILDREN
「ごめん」


「…いや私が…ごめんなさい…」


俊が何も悪くない事くらいわかっているのに
素直にすぐに謝れなかった。


「でもさ、それが本当なら警察行った方がいんじゃないの?」


ハンドルを両手で握りしめたまま遠くを見つめた後、俊は私の方へと首を動かす。



「警察?」


それは、今まで思いもつかなかった事だった。


「うん、だって殺されそうになったんなら殺人未遂でしょ?警察に話したら、動いてくれるんじゃない?」



「警察が動いたらどうなるの?」


「捕まると思うよ」


正直、今の苦しみから逃れる事ができるのなら
自分がされてきた事を言ってしまいたいと思った。


だけど、捕まると俊が言った瞬間に胸の奥で感じた事のない傷みが走る。



「捕まったら私はどうなるの?弟は?」


「わかんないけど…施設とか…?」


あんなに親が憎いと思っていたのに、親が捕まるのは嫌だと思った。



「警察には言わない…」


呟いた私の答えに俊が何か言葉を返す事はなかった。
< 310 / 719 >

この作品をシェア

pagetop