好きだと言えなくて。
「ね、聞いた?」
「あの1年のコのでしょ?名前、なんだっけ」
「あ、それあたしも聞いた。あれって…」
根も葉もない噂ほど、広まるのが速いもの。
だけどそれじゃ不安になるあたしがいる。
叶のことは、当然あたしも、何も知らなかったわけで。
これで昨日の政経が自習になったのも、あのタイミングで叶が教室前を通ったのも、納得がいく。
昨日の、あの意味深な表情も。
胸の中にもやもやが積み重なっていくのがリアルに感じとれて、教室を後にした。
乱暴に閉めたドアは、最後の抵抗みたいだった。
"あれって叶くんでしょ?
彩姫ちゃんも気の毒だよね。
あの2人、付き合ってるんでしょ"