あまいの。



「……あ」



久しぶりに、彼を見た。


シロツメクサの河原沿いの土手。

大きな黒いエナメルの鞄に、色褪せた黒い野球帽。


…遠くからでもすぐにわかる彼の目印。



「拓也!!」



背中に呼びかけると、彼はゆっくり振り向いてむすっとした顔をこちらに向けた。


帽子の影に、黒く焼けた彼の頬。


「なんか久しぶりだね、元気してた?」

「…ああ」


中学から野球部に入部した拓也。

朝練やら夜練やら忙しくて、同じ高校にあがったと言えど廊下ですれ違うのすら珍しくなってしまった。


…せっかく手先が器用だから、美術部とかに入ってもよかったのに。



「今日は練習ないの?」

「…明日から合宿だから、今日は短縮。」

「そうなんだ!合宿かぁ…野球部強いもん、やっぱり忙しいんだね!」

「……ん」


土手道に、あたしの声だけが明るく響く。




『さっちゃん』




…彼は男の子から、男の人になってしまった。


彼が呼ぶあたしの名が佐知江に変わり、だからあたしもたくちゃんって呼ぶのを止めたのだ。



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