あまいの。
眉間にシワをよせた彼の顔が、こちらを向く。
呆れたような笑みを浮かべて、彼はあたしの方へと歩み寄る。
…何でだろう、泣きそうだ。
「佐知江──、」
「すきだよ」
風に揺られていたシロツメクサが、動きを止めた。
土手に広がる白と、たくちゃんの黒。
「だいすきだよ、たくちゃん」
あたしの視界には、もうこの二色しかないの。
俯いた視線の先に、泥だらけのスニーカーが写り込む。
ズボッという音と共に重くなった、頭のてっぺん。
…のせられたのは、たくちゃんの帽子。
顔をあげると、少し照れたような彼の顔があった。
「……帰るぞ」
くるりと反転して、スタスタと前をいく彼の背中。
泣き笑いの顔のまま、小走りでそれを追いかける。
一度振り返ったたくちゃんは「おそい」って呟いてまた、呆れたように少し笑って。
…黒く日焼けしたゴツゴツした手で、あたしの手をひいた。
「…たくちゃん」
「それ止めろって」
「…へへ、たくちゃん!」
「……アホか」
白一面の河原が、キラキラと光って微笑んでいる。