あまいの。

やけにシンと静まり返った夜の黒の中で、ため息ひとつ。


同時に沙耶の瞳から…ひとつぶ涙が、ポツリと落ちた。


「今度こんなんあったら、別れるって言ったよな?」

「………」

「なぁ沙耶───」

「やだ、…っ」

「…もうこういうの、無理。」

「無理はやだ!」



そしてまた、彼女は泣く。

可愛らしい顔を、くしゃくしゃにして。



「好きなの、耕正。いちばん、」

「………」


─嘘つきは嫌いや。


「ごめ…、もう絶対しない、から…っ、」

「………」


─もう知らん、お前なんか。


「も…っ、こう…、ごめ、ねっ…」

「………」


─日本語になってへんから。


「無理なんて言わないで。耕正、こうせ…」




─そしてお前はまた言うんや。


一番最後に、同じ台詞を。




「耕正がいないと、だめなの。」




─ああ、もう。




そのまま俺の胸に額をくっつけて、沙耶はグズグズと泣く。


ほっそりとした白い腕が、俺のTシャツをキュッと握った。


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