あまいの。
だから、
「だから、ずっと俺の側にいて。」
そう言って彼女の手を掴むと、彼女は驚いたように目を丸くした。
言いたいことが出てこない様子の唇は、金魚のようにパクパク動く。
「結婚しよう」
─薬指にはめた指輪。
彼女の瞳が、涙で滲む。
「…いっつも回りくどいのよ…っ、アンタは」
「うん」
「ばか…っ、ビックリした」
「…うん、ごめん」
彼女はやっぱりそんな悪態をついたけれど、それでも握った手は放さなかった。
コーヒーカップはほんの少し色褪せたけど、少しすたれたその色は、俺たちの今までの軌跡を示す。
君の入れてくれるコーヒーも、慣れ親しんだテーブルも、そして君も。
…もう俺の生活の一部なんだ。
『放さないで』
腕の中でそう呟いた君は、ほんの少し震えてた。
はなさないよ。
握った手も、この体温も、意地っ張りな君も。
この手をこれからも、引いていくから。
…未来まで、ずっと。
【end.】(2007.11.5)