流れ橋
目があった。


知ってるひとだ。


田中俊だった。


わたしの卒業アルバムに、


寄せ書きを書いた男子3人。


全員学内一の進学校に合格した。


卒業してから、一人も会っていない。


本当に久しぶりに見た

顔だった。


思いがけなかったので

なかなか、目が離せない。


そしたら、


向こうも驚いた顔で


こちらをじっと見ているではないか。


ついさっき、あんな嫌なこと


思い出したからよ。


わたしは、そう思った。


もう、鞄の中身を気にしている場合では


ない!!


わたしは、その場を


今すぐ、離れたかった。

あんた、あの寄せ書き

見たでしょ?


わたしは、あのことを知ってると


思った。


卒業アルバムを


返した時のあの顔。


上田とわたし以外に


知ってる人物。


誰にも知られたくなかった。


土曜日の夕方。


電車は、混んでいた。

逃げることないのに・・


そう思ったが、


体が勝手に動いていた。


「逃げることないだろ」


彼女のうしろ姿を見ながら


田中俊は、


呟いた。
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