あなたの大切なもの

彼が発した言葉は、冗談だと思いたかった。
あたしはふざけてるんだと思いたくて、言葉をかける。

「も～何言ってん？　ふざけるんもたいがいにしてよ！」

「…………」

彼は何も言わない。
嫌な予感が、あたしの背中に走った。

聞きたくない。

「じゃぁ親も心配するし、帰るわな！」

親が心配？
心配なんか、する訳ない。
純も、あたしの親が放任だって知ってる。
嘘をついとるって、すぐばれる。
でも、この場所から、純の前から、はやく立ち去りたい。

次の言葉を、聞きたくない。
耳をふさごうとしたその時――

「冗談やない。　他に好きな女が出来てん。　もう付き合っとう。　やから、俺と別れてくれ」




聞きたくない言葉が、一番発してほしくない言葉が、目の前にいる、愛する彼が、発してる。