夜明け前の桜道
家の前に着くと、急に緊張して来た。
私は、深呼吸すると玄関のドアを開けた。
「ただいま〜」

「おかえり…あら、可愛い男の子も一緒だったのね♪ボーイフレンドが居ても当たり前の年頃だものね…」

母は、1人で浮かれていた…。

「ママあのね、御願いがあるの」
「あら、なぁに?…結婚の約束でもしたの?」

全く人の話を聞かないんだから…。
溜め息を吐いてから言った。

「あのね…この子、月島葵君って言って、親の事情で、一緒に住めなくなっちゃって、独りぽっちで生活してるの。ねぇ…一緒に暮らしたらダメかな?」

さっきまでの、母の顔とは全く別人になっていた。
難しい表情で、私を見つめた後…「ペットじゃないのよ?そんな簡単なことじゃないのは、咲良だって分かっているわよね?…」

ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえるほど、それくらい静寂が続いた。

「分かっているわ、ママ…それくらい、私だって承知してるわ」

「そう…」と、言って母は、目を伏せていた。

「いいわよ♪」
さっきのピリピリとした空気が嘘のように、気の抜けた母の決断。

「は…?」
「嫌、私もね。息子が欲しかったのよ〜♪嬉しいわぁ」

いや…そう言う問題じゃないでしょ…。
「さっきまで、反対してそうな口振りで…」
「たまには、そう言う台詞言って見たかったのよね〜♪ドラマのシーンみたいだったわよね?…ママ、どうだった?」

自分の母親とはいえ、私は呆れてしまっていた。

「はぁ〜…でも、良かったぁ」

「あの…宜しく御願いします」
葵も、礼儀正しくペコリと会釈をする。

「そんな、堅苦しくしなくて良いわよ〜。リラックスして頂戴、自分の家だと思っていいからねー」

……貴方が、リラックスし過ぎなだけですから…。

私は、心の中で思わず、ツッコミを入れてしまった。
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